やりたいことなんて特にない。
 あるのはどうでもいいことばかりだし。

 そんな風に毎日を過ごしていたわたしが。
 このわたしが、なぜかマンションの屋上から飛び降りている。
「ぎぃいやややーーーー!」
 全然かわいくない声で絶叫しながら。ジェットコースター乗って胃が浮くような吐き気を感じながら。浮き上がりそうなほど強い風を全身に浴びつつ、十二階建てのマンションの屋上から落ちている。それでも自分の身に起こっていることが信じられない。え? なに、これ。わたし死ぬの? はっきりいって実感がない。こんな状況なのにどこか冷めている。
 自分のことなのに。
 でも、わたしはいつだってこうなんだ。
 心底、心が熱くなった時なんて生まれて一度もないんだ。
 死を目前にした人のお決まり事で、わたしの周りはスローモーションに変わる。ふと顔を上げると地平線から光がこぼれはじめている。朝日だ。空が白みはじめる。あぁ、きれいだなあ。つまらない毎日は、こんなきれいな景色から始まるんだ。なんで、そんな当たり前の、でも奇跡的なことを見失っていたんだろ。

 ふっと風の音が聞こえなくなって、
 朝日のあまりの眩しさに目を閉じた。
 たった今の一瞬は、永遠になった。

 ゆっくりと落下しながら、思う。
 ああ、もう、十分。
 体からふっと力が抜ける。
 もうこのままこの世からいなくなろう。
 ……と、思ったら誰かが肩を叩く。
 もう、うるさいなあ。
 目を開けて、わたしを呼ぶ者を見る。
「グミーーー!」
 え? ネコ?
 というか、ミーコ?
 横を向いて目を開けると、ネコのミーコが喋っている。
 するどい歯を剥き出しにして慌てふためいている。
「グミ! 朝日にうっとり……じゃないよ! 下を見て! 死ぬから! 死んじゃうから!」
 下? なになに……って、「ぎぃいやややーーーー!」。え? なに、これ。わたし死ぬの? 
 ってこのくだり、さっきやったし!
 なんて、一人乗り突っ込みをこなしている場合じゃない!
「きゃーーー!」
「グミ!」
「ぎゃーーー! ぎょえーーー!」
「グミ! 飛べ!」
 飛ぶ? 
 なに言ってんの? そんなの無理でしょ。
 わたし、スーパーサイヤ人でも調査兵団でもないただの女子高生だから。
 どうしてこんなことになっちゃったんだっけなあ。
 またこういう時のお決まり事で、今度は頭の中をわたしの短い人生が駆け足で走り抜けていく。
 生い立ちから高校二年生までをぶっ飛ばし、どうしてこんなことになっちゃったのか、とりあえず昨日の朝から思い返してみていた……。



CHAPTER1

 あー、眠い。眠すぎる。
 毎朝思う。高校卒業して大学生になって、大学卒業して社会人になって、社会人から専業か兼業か分からないけれど結婚とかして子ども産まれて、子どもと未来のダーリンのために朝ご飯作るために早起きして……って、ずっと、ずーっとこの先死ぬまでずっと一生この朝の眠気との格闘を続けなければならないなんて……もう本当にカンベン。平凡な人生も全然楽じゃない。みんなこの眠りの誘惑に毎日勝って、日々を繰り返しているなんてえらすぎる。でも、まあわたしもそれしかできないなんの才能もない一般人だから毎日やっているわけだけれど。
 目覚ましが鳴ってゆうに二十分間布団の中でぐだぐだした後に、ずり落ちるようにしてやっと布団から出て、まず制服のブレザーに着替える。それでも眠気は取れずに部屋を出て洗面所で顔を洗っ……てもまだ目は覚めない。
「おはよう、グミ」
「……はよ」
 お母さんがまた、少しだけ残念そうな顔をする。ごめんね、いつもちゃんとした挨拶もしなくて、とは思うけれど、こっちにもそんな元気がない。
 テーブルに座って、お母さんが淹れてくれたミルクティーを飲む頃には、足元にモフモフした柔らかいものが触れてくる。
「ニャー」
 ミーコだ。
 朝のワイドショーを見ながら手だけをテーブルの下の足元までおろして、撫でてあげる。ミーコがわたしの腕にからまり、ぺろりと舐める。
 この世界で唯一かけがえのないものはなにと問われたら、わたしは迷わず「ミーコ!」という。
 ミーコが朝の挨拶を堪能してどこかへ去っていくと、そろそろ時間だ。最後にもう一度洗面所に行き、髪の毛・顔・鼻毛・制服を一つずつ確認して、またなにも言わずに家を出る。まだ寝ているお父さんとは顔も合わせない。
別に反抗期とかでなくて、ただ単純にあいさつが面倒。


 通学中の一人の時間は、表向きの自分を準備するまでの大切な時間だ。
 学校の正門をくぐるまで、正直、誰とも会いたくないし、話したくない。
 ついつい目が合って、「おはよー」「あ、おはよー」の、そのあとシーン……って、おいおい、マジ? わたし頼みってマジ? そっちから挨拶してきたんだから、なんか会話あるっしょ!……なんて悩まないように斜め下ばかり見つめながら歩いている。
 だから、家を出て駅まで自転車に乗って、満員電車でスマホいじって、高校の最寄駅に着いて、学校に到着するまであまり周りを見ないようにしているのに、
「グミ、おはよー!」
 と、後ろから声が聞こえてくるのだった。
 もう、だからまだ準備ができてないんだってば! って普通はなるけど、この声なら良かった。
 仲いいグループの中でも一番仲のいいカエデだ。
「おはよー」
 手を振ってカエデが追いつくのを待つ。
「ねえ! グミ。昨日観た? 『オッス! メッス! キッス! からのジャーマンスープレックス!』。わたしが今一番好きなお笑い番組!」
「観てない」
「じゃあ、『ランチキミュージック』は?」
「うーん……」
「『背伸びとキスの間のわたしとあなたとネコとカメレオンと迫りくる日常』は? 今、みんな観てる超人気ドラマ!」
「……観てない」
「もー、グミってなんにも興味がなくてつまんなーい!」
「ご、ごめん……」
 つまんない、という言葉に、わたしが少しだけ本当にショックを受けているのを見て、
「う、うそうそ。ごめんグミー!」
 とカエデは腕をからめてくる。
 でも、本当にそうなんだ。
 カエデみたいに色々なことに興味を持てない。わたしは、 つまんない人間だ。
 でも。
 本当は一つだけウソをついている。カエデにも内緒なこと。
 正門をくぐって下駄箱まで行けば、もうわたしの表向きな顔もできている。色んな子に挨拶されても文句ない笑顔で返せる。
 あ、一人だけいた。
 表向き、なんてのが意味なくなって、しどろもどろってしまう人。
 高山宗助くん。
「おはよ……」
 かかとを履きつぶした上履きを取り出している高山くんは、わたしに気付き、
「あー、ちーす」
 と、だるそうに挨拶する。
 今日もぼさぼさの頭してる。
 百七十五センチの身長は、わたしの背が小さいから、顔は見上げたところにある。
 すぐに顔を背けて先に教室へと行ってしまう。
 ……と思ったら、ん? なんかおしりのところに、ぷらーんと垂れ下がってるものがあって、あれはなんだ。
 尻尾?
 ネコの尻尾が上着とズボンの間から出ている。
 えー、なんか、ぷぷっ、かわいい。
「宗助ー、おはよーって、なにそれ。なんか尻尾ついてるけど」
「はあ? うおっ! なんだこれ!」
 ずるーっと、自分のおしりから引っ張り出し、指先でつまみ上げて眺めている。
「あー……また千佐だ。あのやろー」
「マジうけるー。なにやられてんのまたー」
 吉本紗那と二人で盛り上がりながら、そのまま教室へと行ってしまう。
 わたしが、最初に見つけたのに。でも、結局無理なんだけどね、あんな感じ。話しかけることすら緊張するっていうのに、あんな風にお気楽に喋るなんて絶対無理。
「どうしたのー、グミ」
「えっ? ううん別に。ねえ、漢字の小テスト今日やばーい」
 羨ましい、なんて気持ちも少しはあるけれど、別にまあいいや。
 教室に入ると窓際の高山くんの席あたりに吉本紗那とか他の女子がいて、男の子も多田くんと生野くんとかがいて、わいわいさっきの尻尾の話なんかしてる。
「尻尾って、お前気付かないの?」
「うっせーな。千佐が上手いんだよ」
「千佐ちゃんかわいい」
「かわいくない。帰ったら折檻じゃ」
「やめなよ、かわいそー」
 千佐ちゃんとは、高山くんの五個下の小六の女の子だ。この子が面白いことに高山くんが寝ている時に色々とイタズラをするのだった。それで今日も高山くんはなにも気が付かずにそのまま家から学校まで電車を乗り継いで来てしまったってわけだ。
「宗助、前はマジックでモミアゲとヒゲ繋げて描かれてたもんなー」
「教室入ってきた時、どっかの外国人助っ人が来たと思ってマジあせったわ」
「なんの助っ人だよ」
「宗助くんって朝起きたら顔洗わないの?」
「洗うけど眠すぎて目が開いてねえもん、だから自分の顔なんて見てない」
 チャイムが鳴った。ホームルームが始まる。
「うー、眠い。おやすみなさい」
「もー、また栗原に怒られるよー」
 吉本紗那が、机の上で寝てしまった高山くんの髪の毛をくしゃくしゃと撫でる。
 やー、もー、なんか、微妙にえろーい。
 なんて、一人で悶々とするわたしとは関係なく、ガラガラと扉が開き、栗原先生が入ってくる。
 いつもとほとんど変わらない、わたしたち今日一日の学校生活が始まる。
 高山くんには両親がいない。
 小学四年生の時、交通事故で亡くしてしまったらしい。
 今は叔父さん叔母さんの家で暮らしている。とても良くしてくれていてなに不自由ない生活らしいけれど、高山くんは気を使って、毎朝、新聞配達のアルバイトをしている。放課後はまたファミリーレストランで働いている。自分の大学進学のためのお金と、それと千佐ちゃんの将来の学費分だ。
 だから、眠いのだ。
 眠くてしかたがない理由が、高山くんにはある。
 わたしなんて、なにもしてなくても物理の時間は睡魔と格闘しているってのに・・・
「如月ー!」
「はっ!」
 いやいや、もう遅いって。
 顔を上げると、みんながわたしを見て笑ってる。
「三度、お前の名を呼びあげても気付かなかったぞなもし」
「すいません・・・」
「バツとして、後でみんなのノートを職員室へ持ってくるでべらまっちゃ!」
 ああ、最悪。恥ずかしい。
 高山くんをチラ見すると、げっ、起きてる。こんな時は起きてるんだ!
 でも、わたしになんてまるで興味がなさそうだ。

 
 職員室までノートを届けに行くと、パーテーションの向こうで先生たちが話すのが聞こえてきた。
「彼女、やっぱりやめるらしいですねえ」
「そうですかあ。残念。せめて高校は卒業していたほうが将来はねえ……不安定な職業なんだから」
 それだけですぐに誰の話をしているのかわかる。
 昼休みの教室に戻ると、職員室の話は生徒たちにもすでに広まっているみたいで、なんかいたるところでその話をしていた。
「グミ、やっぱり二組の青木さん学校やめるんだって」
 カエデがわたしに言ってきた。
 やっぱり、その話題だ。
 二組に青木まどかという子がいた。今ではこの学校以外でも高校生だったら知らない人は多分、ほとんどいない。
 今、人気絶頂のアイドルグループ「パプリカ」のメンバーだ。五人組で活動していて、色とりどりのよく分からないパプリカの着ぐるみ着させられているから、笑ってしまうというかこれ狙いすぎじゃね? ってわたしだって最初は思ったけれど、今となればアイドル界でもトップレベルの位置をキープしている。青木さんは「パプリカエース」として赤の着ぐるみを着ている。
「パプリカエースの青木です! 青が熟して赤になりました! あなたの応援があれば、もっと熟して熟女になっちゃうぞ! あっ、そりゃまずいか、てへっ!」
 が、キャッチフレーズだ。どんなキャッチフレーズだよ! と突っ込んだところで、今はそれで大勢のファンが沸く。
「青木さん、やってくれちゃったよなー」
 吉本紗那の声が聞こえる。
「別にさあ、たいしてかわいくなかったじゃん?」
「だよねえ、っていうかどっちかというか目立たない存在というかフツー」
 今では、中高生の芸能人人気アンケートで常に上位にランクインするほどになっている。というかどこからどう見てもとってもかわいい。幼い顔立ちで、目が小さいのだけれどそれが小動物みたいで。守ってあげたくなる? とか男子は思いそうな。
 でも、少なくとも 、青木さんはこの学校では目立った子ではなかった。わたしは話したことなかったけれど、多分、二組ではわたしと同じようなポジションだったんじゃないかな。吉本紗那たちみたいな目立った感じじゃなくて。
「わたしもやってみようかなあ」
 吉本紗那が言った。
「え、もしかしてあれのこと言ってる?」
「やる? 彩も。別にタダだしなんの損もないじゃん」
「だってさあ……選ばれたら、どうする?」
「あははっ! やる気だよ、こいつ!」
 どっと盛り上がって、クラスのみんなが吉本紗那たちを見る。
「みなさーん、彩がアイドルになりたいそうでーす。応援してあげてくださーい」
「や、やめてよ紗那ー!」
 クラス中に笑いが起きる。
 わたしも、笑っている。付き合いで。
 彩さんは顔を真っ赤にしている。
「でもよお、青木だってあんなになったんだから、マジやってみれば? 紗那のほうがかわいいって」
「そ、そうだよお。紗那がやってみればいいじゃん!」
 彩さんは自分の話題が反れたので、ここぞとばかりに賛成した。
「やめてよお、やらないよあんな着ぐるみ着てダサい。すぐ人気なくなりそー」
 とか言いながら、吉本紗那はまんざらでもない感じ。むしろ、やっとその言葉が出たか、といった感じ。
「あ、でもお」
 と、吉本紗那は甘えた声を出しながら高山くんを見る。
「宗助がもし、紗那がやってみれば、とか言ったらやろうかなっ」
 高山くんはパックの牛乳を、ぢゅーって飲んでいる。
 プハッとストローから口を離すと、頭を掻きながら言った。
「別にやりたければやったらいいんじゃない?」
 投げやりな小さい声。
 でも、わたしの集中力は次の言葉を聞き逃さなかった。
「ただやりたいことなんもねー紗那が、やりたいこと見つけた青木さんの悪口言ってることがダサい」
 うん。
 だから、やっぱり高山くんは信頼できる。
「はあ? なにそれ。宗助、マジむかつくんだけど」
 べえ。
 と、高山くんは舌を出して、
「お前にむかつかれても別になんとも思わにゃーい」
 と言った。
「じゃあ……やらない」
 吉本紗那は、むくれてしまっている。
その顔は、わたしが見てもなんだかかわいかった。
「やらないよ。モザイクなんて絶対に。ダサい」



CHAPTER2

 アイドルになりたい女の子と、アイドル発掘に日々いそしむ芸能界との懸け橋となるインターネットのサイトが、最近、巷で話題となっている。
 サイト名は、
「MOZAIK」
 使い方はとっても簡単。パソコンにウェブカメラとマイクが搭載されていれば誰でも利用できる。サイトを開くと、一面真っ白な画面。
 しばらくすると、画面の下の方に一文字ずつ文字が現われる。
「カメラの前に立ち、あなたの体を映してください。
 それから、あなたの思いのたけを歌ってください。
 あなたの声、あなたの言葉、あなたの思い浮かぶメロディで。
 楽器は必要ありません。音楽理論上正しくなくても一向にかまいません。
 好きなように歌ってください。
 自由に、笑うように、泣くように。
 もし、あなたとわたしの心が通じたら……。
 世界中の人に届くような歌が作れたら、素敵だと思いませんか?
 どこかでお会いできるのを楽しみにしています」
 ウェブカメラを起動すると、カメラで撮った自分が画面いっぱいに映し出される。
 パソコンから下がって体全体を映すことができたら、画面の下に、
「sing a song for yourself!(あなた自身のために歌って!)」
 と赤い文字が出る。
 そして、あとは歌う、だけ。
 そう、歌う。
 歌い終わると、クリックして終了。
「wait a miniute…」という文字が出て、しばらくすると、モデリングされてかわいくデフォルメされた自分の3Dグラフィックスのアバターが登場する。え、こんなサービスがあるんだ、これ欲しいーと思っていると、その自分のアバターがこちらに手を振り「バイバイ」と言いながら消えていく……。
 ……そう、ここまで知っているのは、実際にわたしもやったから。
 誰にも言えない、友だちのカエデにも内緒なこと。
 歌うのが、好き。
 歌手になる、のがわたしの夢。
 だから「ランチキミュージック」なんてものは、毎週欠かさず食い入るように観ているに決まっているのだ。
 ……あー、恥ずかしい! わたしがなれるわけないじゃん!
 絶対にばれるわけにはいかない。特に吉本紗那なんかには絶対に。みんなの笑い者にされるに決まっている。こんな地味なわたしが? 歌手? いやいや、あり得ない。
 でも。
 聴いてほしかったんだ。
 わたしの歌声を。
 誰でもいい。どこかの誰かに。
 どうして、わたしたちは自分がやりたいことすら自信をもって正直に言えないんだろう。周りの目ばかりを気にして、バカにされるのを気にして。こんな風にこれからもずっと、自分を騙し続けて生きていかなければいけないのかな。
 それならせめて。
 一人の時ぐらいは、正直になってみたかった。
 あの時、わたしはモザイクに映る自分に向かって歌った。言葉通り自分自身のために。でも、全然歌えなかった。誰かがこれを見ると思うと恥ずかしくて、途中から顔は真っ赤で、声も全然小さくて出なかった。
 一人なのに、それでも正直になれない自分がかなしい。
 歌った後は、拍子抜けだった。自分のアバターが消え去ってしまったら、その後はずっと、画面は真っ白なままだった。
 っていうのが、一昨日の話。
「MOZAIK」というサイトがどうしてこんなに有名で、ちゃんとした信憑性があるのかといえば、文章の最後に出るある名前のせいだ。
「榊 紘大」
 数々のアイドルグループをヒットさせ続けている、稀代の作曲家であり音楽プロデューサー。
 親しみやすいメロディとその意表を突く企画は、ことごく大衆に支持され、曲は立て続けにヒットチャートにあがっている。1位から10位のほとんどが榊紘大プロデュースの曲、だなんて今ではざらにあることだ。
 しかし、榊は表舞台には一切現れない。
 そのために一人じゃなくてグループだとか、本当は女性なのではとか色々な噂がある。そして、アイドルグループを次々とヒットさせて生み出していく代わりに、彼女たちが廃れていくのも早い。全く愛情を持たない冷徹なアイドル使い捨て工場長、だなんていう悪い評判もある。
 そして、パプリカエースこと青木まどかは、モザイク出身という噂だった。
 わたしみたく、学校で目立たない地味目な女の子が、どのくらいの強い気持ちと、どれほどの努力を積み重ねれば、夢は叶うのかな。
 あんな風に、大勢のファンの前で歌えるようになるまでは。
 一昨日の、たった一つのカメラの前ですら、もじもじしながら恥ずかしそうに歌った自分を思い浮かべてみた。
 とてもじゃないけれど無理。百パーセント無理。
 こんな臆病者は、なにをやっても無理だ。


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